永富 友海  教授


学歴

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津田塾大学学芸学部英文学科(学士号)
慶応義塾大学大学院文学研究科英文学専攻(修士号)
東京大学大学院人文科学研究科英語英文学専攻(修士号)
サセックス大学(博士号)

B.A in English, Tsuda College
M.A. in English, Keio University
M.A. in English, University of Tokyo
DPhil in University of Sussex


専門分野

19世紀イギリス文学・文化

nagatomi2日の出の勢いにあった19世紀英国において最盛期を迎えるイギリス小説は、ジェイン・オースティンに始まり、ハーディに至るまで、驚くほど作風が異なるにもかかわらず、総じてある共通点を備えています。それは、結婚という着地点を視野に入れてストーリーが進行していくという構造的特徴です。一見すると、こうしたお約束的な形式の踏襲は単なる保守と映りかねず、近年ではむしろ時代背景とあいまって、植民地主義という観点からのアプローチが盛んになってきています。しかし、植民地という安直なまでにわかりやすい<外部>の他者性に批評の流れが傾くなか、時代のキーワードとしてあまりにも認知度が高すぎるがため、実は検証が不十分なままにとどまってしまっている「家族」や「家庭」の内実をあらためて注視すると、結婚や親等という慣習・制度と、身内/他者のレトリックが不可分であることが明らかになってきます。このように家族の<内>に潜む他者性をあぶり出すことによって、イギリス小説史の新たな見取り図を描き出すことを、当面の研究の目的としています。


担当科目について

担当科目:イギリス文学演習、イギリス文学講義、英文学史、Reading & Research

英文学科の学生さんから、しばしば授業についての質問を受けます。高校の授業から大学の演習や講義への移行にあたって、戸惑うことも多いでしょう。質問の内容はさまざまですが、なかでも「この物語は何を言いたいのですか?」と困惑顔で問われることが少なくありません。そうした問いかけに対し、「どう読んでもいいのです。そもそも解答などないのですから」という(私の)回答は、残念ながらほとんど効力を持たないようです。英語の読解という大問題が一方にあって、それと同時に、この私の役立たずの回答の意図するところをどうすれば少しでも実感してもらえるか、英文学科で学んでいくために、「解答はただひとつ」という発想をどうやったらリセットしてもらえるのかといったことを、ぼんやりと思いめぐらしています。

「解答がひとつ」という考え方は、社会のいろんな局面において、効率のよい手段となりえます。さまざまな差異をひたすら均らしてしまうこと、耳触りのよい、わかりやすい、もっともらしい言葉に還元してしまうこと、文学や文化研究とは、しかしそうした作業に与するのではなく、均一化、還元化の過程で漏れ落ちてしまうもの、切り捨てられてしまうもの、口にするのも恥ずかしいようなくだらない感情やら、一言では言い表せない複雑な心持ちをすくい取る領域として存在するべきではないかと思います。そのようなちまちました煩わしい事柄に、長い目で見れば人生のボーナスとも言えるような大学での数年間、あえて関わってみるのも、意味のないことではないかもしれません。


主要業績

・「身内のレトリックと、結婚、相続の(不)可能性――『レイディ・オードリーの秘密』を中心に」『英文学と英語学』48号(上智大学文学部紀要、2012年)

・「The Return of the Nativeにみる近親性の変容――filiationからaffiliationへ」『英国小説研究』 第24冊(英宝社、2012年)

・グレアム・グリーン『見えない日本の紳士たち』(共訳、早川書房、2013年)

・グレアム・グリーン『国境の向こう側』(共訳、早川書房、2013年)

・「『デイヴィッド・コパーフィールド』における 記憶と家族」 『一九世紀「英国」小説の展開』海老根宏編(松柏社、2014年)

・「『遠い山なみの光』における差異と反復」 『英国小説研究』 第25冊 (英宝社、2015年)

・「オリヴァーの見る夢 — 『オリヴァー・トウィスト』における「ファミリー・ロマンス」の行方」 『英国小説研究』 第26冊 (英宝社、2017年)

・「Skittlesの痕跡を求めて — センセーション・ノヴェルにおける “horse-tamer,” “horsebreaker”の表象」『英文学と英語学』54号(上智大学文学部紀要、2018年)

・「波及するセンセーショナリズム―『ダニエル・デロンダ』への一道標」『英国小説研究』 第27冊 (英宝社、2019年)